2025.03.27 知る

TUAD OB/G Baton≪mini≫フォトグラファー・布施果歩


2025年3月に発行した校友会通信50号。
『50』という節目としてメインビジュアル作品を工芸コース卒業生の彫刻家・佐野美里(さの・みさと)さん、その撮影をコミュニティデザイン学科卒業生のフォトグラファー・布施果歩(ふせ・かほ)さんにご協力いただきました。

『TUAD OB/G Baton≪mini≫』として、お二人に在学中のことからこれからの活動についてお話を伺いました。

布施果歩(ふせ・かほ)さんはデザイン工学部コミュニティデザイン学科を卒業され、現在は山形で映像制作等を行うストロボライトでフォトグラファーとして活躍されています。

山崎亮さんの本と出会い、新設されるコミュニティデザイン学科の受験を決めました

コミュニティデザイン学科1期生と伺いました。どのような理由で新設のコミュニティデザイン学科を選択したのですが?

高校生の頃から地域に関わる仕事や、全国を旅するような生き方に漠然とした興味がありました。それらを実現するには一般大学への進学か、公務員になるぐらいしか知らず進路選択に迷っていた頃、高校の図書館で当時の学科長 山崎亮さんが書いた「コミュニティデザイン」という本に出会い、感銘を受けました。その後、芸工大にコミュニティデザイン学科が新設されるということを知り、オープンキャンパスに参加して受験を決めました。

学生時代の楽しかったこと・印象深い思い出を教えてください

授業の一環で山形県大江町の空き家をリノベーションし、同期3人で暮らしたことです。
元は八百屋を営んでいた建物で、八百屋部分だった土間は地域に開かれた場所に、他は住居スペースに改修し、「縁屋」という名前の建物になりました。改修は自身の所属とは別のスタジオが行なっていたのですが、私も大江町を拠点に卒業制作を行っていたこともあり、途中から一緒に活動し始めました。 自分で床を張ったり、壁を塗ったりして住居をつくる経験は人間的なスキルが上がった気がしましたし、そこで卒研のイベントを開いたりととても楽しかったです。地域の一員として生きていくとはどういうことか、この時期に学んだ気がします。当時は毎日のように縁屋で大学の友達や地域の方々と飲み会をしたりしていて、その時に仲良くなった方々とは今も大江町でお仕事を頂いたり、お酒を飲んだりとお世話になっていて、今の生活は学生時代で得たご縁の延長にあるような感じです。

コミュニティデザイン学科で非常勤講師をされていますが、教える立場からみる芸工大の印象はいかがですか?

0から1をつくる力があり、とても素直な学生が多いと感じます。私も社会人になってから気づきましたが、まだやったことのないことへチャレンジする精神や、自分で物事の本質を考え、行動を起こす力を持っている人は多くないと感じます。そんな中で芸工大生はそういった力を持っていて、形にする技術もあります。そして何より、自然豊かなキャンパスで学んでいることも影響しているのか、素直な学生が多く、地域からも愛されているのではないかと感じます。 山形で仕事をしていると、いたるところで芸工大の卒業生と出会います。山形でおもしろそうな活動が始まった時、進めているのは芸工大の学生や卒業生だった、ということが頻繁にあります。映像制作でチームを組む時も必然的に芸工大の卒業生で構成されることも多いですし、お客様が芸工大卒だったりすることも多いです。そういった方々と仕事をすると、同じビジョンに向かいやすく、良いチームになり、良い仕事ができると実感しています。そういった土壌ができているのは、山形に芸工大があるからだと思います。

コミュニティデザイン×カメラ=ワクワクから目指しました

カメラマンを目指したきっかけ、そして現在のお仕事内容を教えてください。

3年次にあった写真・映像制作の演習授業で「映像制作っておもしろいし、自分にもできるかも」と思ったことをきっかけに、「コミュニティデザインのスキルを使ったカメラマンになったらどんなことができるだろう?」というワクワクからカメラマンを目指しました。それからは映像学科に遊びに行って色々教えてもらったり、現在所属している制作チーム「strobelight」の代表渡辺然さんのところにインターンに行ったりしながらスキルを磨きました。現在はフォトグラファー、ビデオグラファーを軸として、写真撮影や映像制作を行なっています。また近年はコミュニティデザインのスキルも活かしながら、参加型の映像制作やワークショップなどの企画、運営も行なっています。

佐野さんのアトリエへのドライブをご一緒させていただいた際に佐野さん作品のファンだとお聞きし、奇跡的な巡り合わせだなと感じました。佐野さんのアトリエに伺っての撮影や、ご本人にお会いしてみての印象、今回のメインビジュアルの撮影の感想など教えてください

佐野さんはまさに、作品から感じるような愛らしさのある女性でした。
霧がかる山の麓にある、大きな丸太や作品がたくさん置かれたアトリエはとても開かれた空間で、新作が完成したらご近所さんにお披露目の機会を設けられるなど、地域のみなさんとの関係を大切にしながら制作されているのが印象的でした。
私は佐野さんの作品を見ていると、鳥や虫、動物を見てふと感じたりする「みんな生きているんだなぁ」「なんだか可愛いなあ」という気持ちが思い出されます。
撮影では、そういう気持ちや雰囲気をどうすれば写真にも表現できるか考えながら撮りました。 みなさんに伝わると嬉しいです。

これから挑戦したいことはありますか?

地方の映像はまだまだ発展途中です。まだまだ首都圏中心にまわっている仕事ですし、地方拠点のビデオグラファーはごく僅かで、情報も少ない状況です。そんな中で地方における映像制作に与えられるお題は、首都圏のような購買意欲を促進するようなプロモーションや、ミュージックビデオなどではなく、少子高齢化、人口流出、一次産業の担い手不足など、根深い課題が根底にあるものがほとんどで、それらを解決するためにどのように映像を活用すればよいか、どんな演出が必要なのかなど、まだ誰もその答えを見出せていません。「地方のデザイン」という言葉は昨今当たり前に耳にするようになりましたが、映像も同じように今後さらに求められていくものになると思います。そうした状況の中で、「地方の映像」がどうあるべきか今後さらに研究をすすめ、より自分らしい作風を見出し、地方における映像を発展させていきたいです。

布施果歩

[フォトグラファー/ストロボライト所属/東北芸術工科大学コミュニティデザイン学科非常勤講師]
地域への愛ある眼差しを持ち、写真・映像領域における地方の可能性を日々探っている。映像作家、ビデオグラファー、フォトグラファーと様々な顔を持ち、作品ジャンルは多岐に渡る。探求心旺盛なインディー・ジョーンズタイプ(ストロボライトウェブサイトより)

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