デザイナー・教育者・父親として、感覚も学びも共有していく

2期生 2021.04.22

藤田寿人

(東北芸術工科大学プロダクトデザイン学科教授)

唯一無二・オリジナルへのこだわり(継続中)

第6回目は、東北芸術工科大学デザイン工学部プロダクトデザイン学科・藤田寿人(ふじた・ひさと)教授です。

藤田先生はデザイン工学部生産デザイン学科(現:プロダクトデザイン学科)に1993年に入学しました。ゼミ担当教員は五十嵐治也(いがらし・はるや)先生でした。

芸工大での思い出を教えてください。

大学時代は本当に自由に過ごしていました。開学して2年目ということで、カリキュラムも実験的で、大学全体が色んな意味でおおらかだったと思います。大学の課題は趣味の延長線上のようで、ただただ楽しく、夢のような4年間でした。

学生時代(今も?)、オリジナリティにやたらこだわりがあった私は、同じ金額を払うなら妥協して中古車を買うのではなく、その金額で買える最高のものが欲しい!とバイトで貯めた30万をつぎ込んで世界に1台だけのスーパーカブをカスタムメイドしました。当時それは私のトレードマーク的な存在になり(どこにいてもバレる)、そしてこのバイクは今も現役で走っています。

こだわりが詰め込まれた藤田オリジナルカスタム・スーパーカブ

3.11での転機、コロナ禍を経て

前職は株式会社岡村製作所にデザイナーとしてお勤めされていましたが、3.11が転機となって、教員の道へ進まれたと伺いました。

企業時代は様々なジャンルの家具のデザインを経験させてもらって、とても充実していました。半面、インハウスデザインでは直接デザインの成果を実感できないジレンマもあり、もっと直接的に自分の能力を活かせないものかと考え始めた頃に3.11(東日本大震災)が起こり、自分の中で世の中の見方や人生の価値観が一転しました。

企業時代(株式会社オカムラ)でデザインした学修椅子「アルソスチェア」。
ソラマメのような丸みを感じるかわいらしさ。理想的な座り心地を得られるよう、座面の高さや背もたれを無段階で調節できる。

そしてちょうどそのタイミングで大学から専任講師のお話があり、これも何かの縁だと思い、母校に戻ることを決心しました。大学教員採用の最終面接では故・徳山詳直理事長とお話ししたのですが、一度殺されて再び命を吹き込まれるような(恐)、一生忘れられない時間を経験しました。たぶん浄化して頂いたのだと思います。

藤田先生の研究室はたくさんの緑と、先生の好きなもの・興味のあるものたちで溢れている。

教員という立場で母校芸工大に戻ってみての実感はいかがですか?

大学での教育に携わって早9年、家具デザインを中心に木工、地域との連携など、学生と一緒に自分も学びながら専門領域を拡張しています。最近では休日に出かけた先々で知り合いに出会うことが増え、地域との関係が深まっていることを実感しています。
コロナ禍で大学は大きな変化を余儀なくされていますが、それは悪いことだけではなく、これまでのやり方を書き換える大きなきっかけを与えてもらっているのだと考えています。制作系などの授業はリモートでできないところは困りものですが、リモートならではのメリットを取り入れて授業をデザインしています。とはいえ一番困っているのは地域連携型のプロジェクトですね。こればかりは直接交流しないと実施できないので早く平常化して欲しいです。

子どもと目線を同じにする日々を楽しむ

仕事と仲間

日々楽しみにしていることや、面白いと感じていることは何ですか?

これまで個人で楽しんでいた趣味を子どもたちと一緒に体験したり、共有することです。子どもたちにはできるだけたくさんのことを五感で感じてもらいたいので、休日はできるだけ外に連れ出して、色々な物や人、景色と出会い、一緒に感動するのが一番の楽しみです。そういう意味では山形は本当にいい所ですね。帰ってきて本当に良かったと思います!

山形での子育て教材はあふれる自然

藤田先生といえば”料理上手”との噂が多方面から聞こえてきます。最近はどのようなものを作られましたか?

最近はまっているのはお寿司を握ること。料理好きがこじれて沼にはまっています。握れど握れど納得できず、寿司職人へのリスペクトは高まる一方です。

寿司握り沼のこじらせ具合が感じられる、素人とは思えないクオリティの高いお寿司 事例1
寿司握り沼のこじらせ具合が感じられる、素人とは思えないクオリティの高いお寿司 事例2
技術を活かして木枠まで自作するこだわりよう。プロダクトデザイナーのスピリットを感じます。

今後の展望について教えてください。

今年度から教授職に昇任したことから、さらに責任の大きさを実感しています。デザイナーとしても教育者としてもアウトプットを大切にしていきたいです。そして母校の存続と発展に対してもしっかり取り組む必要があると思っています。

最後に、東北芸術工科大学で学ぶ在学生のみなさんへ、メッセージをお願いします。

自分だけの時間を自由に使えるのは大学時代だけだと思います。なんとなく過ごすのは本当にもったいないので、遊びでもバイトでもやるときは徹底的にやってみましょう。教員の立場であまり無茶なことは言えませんが、一度限界まで何かをやってみるのもお勧めです。自分の限界を知ることで、社会に出たときにどこまでやれるのか、やれないのかの自分の基準ができ、自分と向き合うことができるようになると思います。コロナの影響で「想像していた大学生活が送れない」と嘆いている学生もたくさんいると思います。コロナ後の世界がどうなるかは分かりませんが、コロナがあろうが無かろうが未来は常に不確実です。状況のせいにして嘆いたり諦めたりするのではなく、その状況の中で自分にとって最善の選択をしていってください。

編集後記

「”こだわり”をこじらせるまで貫いていける人」

2期生の藤田先生は、生産デザイン学科8期生の私にとって、学科の大先輩に当たります。私の前職は芸工大入試課の嘱託職員なのですが、その頃はそんなに接点がありませんでした。約3年前に校友会事務局となり、理事の一人として改めてお会いしました。

とにかくいろいろなところから聞こえてきたのは「藤田先生は料理上手」という話。そこまで言われる藤田先生の料理ってどんなのだろう、という興味が沸き、(こっそり)覗いた藤田先生のSNSに私は驚きました。
これは藤田食堂…いやビストロFUJITAだ!華麗にさばかれた魚、美味しそうにグリルされたお肉、丁寧に調理された野菜、そしてその料理が美しく盛り付けられた素敵な食器たち。
そこには「藤田先生はこだわりが強い、絶対に」と思わざるを得ない、角度にも光にもこだわっている写真の数々が並んでいました。SNS掲載にも手を抜かないとは、さすが沼にはまっているだけあります。

終わりの見えないコロナ禍において、まだまだ課題は山積みですが、こだわりの強い藤田先生だからこそ、今起きている事象にきちんと向き合って、最良の方法を探してくれるのだろうと思います。
いつか校友会マルシェの校友会出店ブースとして「ビスロトFUJITA」を展開することが私の事務局としての野望です。

校友会事務局 カンノ(デザイン工学部生産デザイン学科 卒業)
取材・編集協力:東北芸術工科大学企画広報課

TUAD OB/G Batonについて

東北芸術工科大学は1992年に開学し、卒業生は1万人を超えました。
リレーインタビュー「TUAD OB/G Baton」(ティーユーエーディ・オービー・オージー・バトン/TUADは東北芸術工科大学の英語表記の略称)はアートやデザインを学んだ卒業生たちが歩んできた日々と、「今」を、インタビューと年表でご紹介していきます。